みなさま ご機嫌よう。
美しい晴れ着で迎える門出。
その人生儀礼に使われる吉祥文様に
『宝尽くし』が あります。
そこに良く描かれる宝ものを
一つ一つ拾い集める中、
今回、手に致しますのは
【金嚢 きんのう・宝袋】
その中には、一体なにが入っているのでしょう?
では参りましょう。
本日、
〈六の巻〉は【金嚢・宝袋】の お話しです。
親しまれる文様
【金嚢 きんのう・宝袋】は、
福徳を呼ぶ代表的な吉祥文様の一つ。
その「福袋」は『福労』と言い
積み重ねた苦労も福と成すと言い、とりわけ
《お宮参り》の男の子用の絵柄に多く、用いられます。
こちらが 金嚢文です↓
【金嚢】と書いて
「きんのう」又は「こんのう」
「かねぶくろ」「かなぶくろ」
と、読みます。
この他に、
・ 宝袋(ほうたい)
・ 砂金入れ とも言われます。
家紋として多くの種類があり
金袋 ↓
聖天袋 ↓
袋菱 ↓
二つ袋 ↓
三つ袋 ↓
三つ盛房無し袋 ↓
角袋 ↓
その他に「変わり袋」「丸袋」など
大変、親しまれている文様として、
瑞祥(ずいしょう)=おめでたい事が起こる前兆・吉兆を意味する
家紋として、たくさん見ることが出来ます。
これほど、親しまれている由縁はどこに在るのでしょう。
大黒天・大国主命
【金嚢・宝袋】を手に持つ方といえば
こちら ご存知、七福神の中の 一柱である神様。
仏教でいうところの、大黒天。
そして、神道でいうところの、
大国主命(おおくにぬしのみこと)。
その、御手にお持ちなのが
【金嚢】です。
なんとも福々しい面立ちの優しい笑顔ですが、
その起源はというと・・
インド・ヒンドゥー教の
シヴァ(=自在天)の化身
マハーカーラ(=摩訶迦羅)で、
マハー ⇒ 大(偉大)
カーラ ⇒ 黒(時間) を意味し、
青黒い体の《破壊と戦闘》という
髪を逆立てた武装忿怒(ふんぬ)の荒神さまです。
日本でも、室町時代までは
甲冑(かっちゅう)を着たり
如意棒をもっている姿が一般的だったそうです。
三面大黒天を崇拝したので有名なのは、
豊臣秀吉。彼の出世の蔭に
『三面出世大黒天』あり、とも言われます。
その後、平安期になると、
その多くが武装を捨て、烏帽子と唐服を身につけた姿へ。
そして、大黒が大国と通じるため
大黒天と大国主命とが結びつき、
日本神話を経て、現在の豊穣の神へ。
「絶対に食事の不自由をさせない神」
福徳の象徴となり
現在。
私たち日本人の心に息づく
七福神の大国様・大黒様は、
一般に、御家庭で大切なお部屋に
その姿を飾られていることも多いでしょう
この豊かな『まぁ~るいお顔と笑顔』
人々の信仰に厚いのは当然のご尊顔ですものね。
では、皆さまのよく知る、その御手に握られた袋
その中には
一体なにが入っているのでしょう。
七 宝
まず、私たちが【金嚢・宝袋】を文様として愛でるものは
美しい金襴緞子の絹織物で出来た、巾着(きんちゃく)袋ですね。
巾 ⇒ 布
着 ⇒ 身に付ける ・の意です。
その中に入っているのは一般に
財貨・砂金・お守り・お香と、言われております。
太宰治「もの思う葦」や
有島武郎「ドモ又の死」に表現される金嚢の中身も、
まがう事なく金銭です。
また、先に述べたように
お宮参りの男の子の衣裳に多様される理由も
『富と財に恵まれるように』との願いから。
また
以前に、こちら
⇒⇒【宝鑰 ほうやく】「宝尽くし」の意味②着物の文様
でも御紹介したことのある
かこさとし氏の絵本「どろぼうがっこう」の背表紙にも
【宝の壺】が描かれています。
壺の真ん中に、旧字で【寶=たから】と書かれていますね。
やはり、どろぼうさんも欲しがった
「宝の壺=金嚢」の中身は《金銀財宝》で間違いなし!
という事でしょうか。
が、お待ち下さい。
もう少し掘り下げさせていただけますか?(微笑)
金嚢=大黒天の持ち物という観点から見ると
仏教で七種の宝とされる
【七宝・七種・七珍】という言葉に巡り合えます。
ここでいう宝袋には
こちらの七つの宝ものが入っていると考えられています。
・ 金 = 随一の貴金属
・ 銀 = 金に次ぐ貴金属
・ 珊瑚(さんご) = 海底で樹木に群生した後の骨格
・ 瑪瑙(めのう) = 白・赤・緑などの縞(しま)模様のついた鉱石
・ 玻璃(はり) = 頗梨(はり)→ガラスを意味する・透明な水晶
・ シャコ = しゃこ貝の略・純白で光沢がある二枚貝
・ 瑠璃(るり) = 青い宝石「ラピスラズリ」・古代エジプトの「青金石」・日本画の岩絵の具「瑠璃色」
また、物質的な宝では無く
寿命
人望
情熱
威光
愛嬌
大量(度量の広さ)
であるとも言われております。
さて、怒濤のような数種の宝物。
あなたにとって
【金嚢】の本当の中身とは・・
一体、何だと思われますか?
最後まで、お付き合い下さった皆さま。
ありがとう存じます。
本日は如何でしたか?
正直に申しますと、
この記事を書き始める前の私は
金嚢=お財布?
あらら、ひと言で終わったらどうしましょ。
と考えていたのです。
けれど
今回も、嬉しい誤算と相成りました。
ほんとうに、宝尽くしの旅は
いつも《誤算に次ぐ誤算》の連続となっております。
大切なお着物に見られる宝尽くしの
その一つ一つに愛おしさが募ります。
この次は、どんなお話しでしょう。
また
次回も、御一緒いただければ幸いです。
こちら
⇒⇒⇒【隠れ笠・隠れ蓑】「宝尽くし」の意味⑦着物の文様
ではまた
ご機嫌よう。