みなさま ご機嫌よう
あなたは
【夜さり/よさり】
という言の葉を
お遣いになったことはありますか
・・・。
いまの御代には
聞きなれぬ言葉ですものね
けれど
お遣いいただくなら
こんな風に
『夜さり方には、お暇しますね。』
よさりかたには、おいとま・・
( 夜が来る頃には 失礼申し上げますね)
如何でしょう
【夜さり】を
話し言葉に交えますと
うっとりするような品がのるものです
たとえば
お食事のお約束をなさる折などにも
楽しみにしております。きっと興に入れば
離れがたくなるでしょうけれど…
夜さり方には、お暇しますね。』
と、さらりとお伝えする
・・
『 よ・さ・り?』
などと
訊き返されてしまうかもしれませんね
そう。
【夜さり】= これは古語
けれど
消えてしまうには惜しいので
本日は
【夜さり】・・のお話しです。
古 語
【夜さり】の読み方は
・よさり
・ようさり
と申しまして
古典の
枕草子・源氏物語
竹取物語・落窪物語
などにも見られます
【夜】の意味は
・今夜
・夜分
・夜になる時分
を表し
ここで言う【さる】の意味は
「近づく」とか
「巡ってくる」という意味です
さる・・が
「去る」ではなく
「来る」というのですから不思議
古来においては
「去る」と「来る」は同義で
その意味は
「向こうへ行く」と
「こっちへ来る」の
両方に用いられていました
そして【夜さり】は
夜が
「去って行く」のではなく
「やってくる」の意で
・夜さり方(よさりかた)
・夜さつ方(よさつかた)
・夜さりつ方(よさりつかた)
そういう時刻のことを
『夜がやってくる頃』と言いました。
お国ことばで 聞き比べると
では
【夜さり】を
それぞれの
お国ことばで、聞き比べてみましょう
◎ 奈良県香芝(かしば)や
奈良盆地南部周辺の大和方言の
「夜さりに、うろうろしたらあかん」
◎ 兵庫県・北播磨の
「こんな夜さりに、うろちょろしたらあかんがな」
(こんなに夜遅くに、外出するのはよくないですよ。)
◎ 新潟県栃尾市・中魚沼郡の
「夜さり、口笛を吹くもんじゃないよ」
◎ 熊本県天草地方の
「また、夜さりな」
(また、夜に会いましょう)
◎ 福井県 鯖江(さばえ)市・越前 の
「夜さりなってから、飲みに行こっせ」
◎ 滋賀県の
「夜さりによせてもらうでな」
(夜に、寄らせてもらいますからね)
他に
「よさり」
「よーさ」
「よーさり」
と使われていたのは
・岡山
・金沢
・飛騨
・伊勢
・三重の伊賀弁
・岐阜の加子母弁
・徳島
・長崎
・福岡の朝倉地方
・和歌山県本宮 など
ちなみに
◎ 鹿児島弁では
「よさ」は、夜を数える『助数詞』で
一晩(夜)を「ひとよさ」
二晩を「ふたよさ」と言い
「ひと晩さねれば、明日ん朝には、あまみちっ」
(ひとよさ寝たら、明日の朝には、奄美に着く)
如何でしょう
この中に
あなたの記憶に刻まれた
お国ことばもお在りでしょうか
もし
記憶をたぐり寄せて
しあわせな
景色を思い起こされた
あなた。
どうぞ
大切になさって下さいね。
よさこい節
勿論 まごうことなく
土佐の【よさこい祭り】
高知県に残る民謡であり
囃子詞でもあります
それが近ごろでは
日本中の子供たちが
地域のお祭りや
学校の運動会の演舞として
創作ダンスとして踊られる
【よさこい節】
としても有名になっております
実は
この『よさこい』も
よさりこい→よさこい
=夜に来い
夜さり来い
=夜にいらっしゃい
が所以であると
多くの地域で
そう説かれております。
ただし
土佐の高知において
◎「よさこい」のヨサは
=『素晴しいなぁ』という囃子詞
◎「よさこい」のヨサは
=木遣り唄の
『ヨイショコイ』のかけ声
であることも
忘れてはなりません。
これが
日本語の奥深さたる由縁ですね
現代にも 遣いたい・・。
時に
「夜さり方には、お帰り下さいね」
そんな風に
新妻に見送られた日には
きっと殿方は
遊んではおられませんね
当世は
年端もゆかぬ
小さなお子さまも
熱心に塾へ通うご時世
優しいお母様ならば
「夜さり方、
気をつけて帰るのですよ」
と、見送ってあげたいものです。
え?
お若い女性が
口にするならですか
では
「夜さり、お電話をなさるから・・」
と、ひと言
愛しい人に拗ねてごらんになると
きっと可愛いですよ
ね?
時空をこえても
残したい
そんな美しい言の葉が
この国には
たくさんあります
そして
口から発するそれが
あなた自身をこしらえるのです
背伸びする必要はありませんが
優しい気持ちになれる
耳にしてくれた方の
胸に温かく残るような
言霊を
これからも綴ってゆきたいと
存じます
宜しければ
どうぞまた お越し下さいませ
本日はお読みくださり
痛み入ります
では
この辺でおいとま致します
ご機嫌よう